児玉万実院長が講演しました!
御所南リハビリテーションクリニック 児玉万実 院長が痙縮(けいしゅく)治療に関わる医療従事者向けのカンファレンスで「コミュニケーションからはじまるボツリヌス療法~増量への期待と治療戦略の変化~」と題して講演しました。「有効な治療も“コミュニケーション”にから考える治療戦略で取り入れるからこそ意味がある」という実践に基づくメッセージに、会場とオンラインの参加者が聞き入りました。以下に講演の要旨をご紹介します。
クリニックでも積極的に取り入れる「ボツリヌス療法」
痙縮とは筋肉が緊張しすぎて手足が動かしにくかったり、勝手に動いてしまったりする状態のことを言います。脳卒中の発症後、時間の経過とともに麻痺と一緒にあらわれることが多く、手指が握ったままとなり開きにくい、ひじが曲がる、足先が足の裏側に曲がるなどの症状がみられます。
アプローチする治療法の一つに「ボツリヌス療法」があります。薬を注射し、筋肉の緊張が和らいだところに集中的にリハビリを実施します。脳卒中治療ガイドラインでも推奨(※1)されており、御所南リハビリテーションクリニックでも積極的に取り入れています。(※2)
【参考】
※1. 脳卒中治療ガイドライン2009以降、グレートA(行うことを強く勧められる)で推奨されている。
※2. 御所南リハビリテーションクリニック 診療実績(こちら)
お困りごとを紐解くコミュニケーションから考える
私は普段、患者様の「生活」に近い「外来」でリハビリの主治医として診療しています。常に意識するのは、リハビリの先に描く「目標」です。
医療の現場で、患者様が「先生に全てお任せします」とおっしゃるケースは珍しくありません。患者様自身が親しみのない医療情報に基づいて判断することは難しく、多くの医師も言われ慣れていると想像します。しかし「治療のガイドラインに沿って診断し、適切とされる治療法を選ぶ」だけでは、患者様の満足度は下がってしまいます。医学的な効果だけでなく、患者様が抱えるお困りごとを解消する手段としての治療が求められているからです。その意味で、治療戦略の検討は患者様やご家族のお困りごとを紐解くコミュニケーションからはじめることが重要だと考えています。
コミュニケーションが治療に対する理解とリハビリへの意欲を引き出す
ここで、高校生の娘様と二人暮らしをする50代女性の事例を紹介します。その時々のお困りごとを紐解いて方針を検討し、結果的にボツリヌス療法も取り入れて「介護負担の軽減」だけでなく「自己肯定感の向上」につなげることができた事例です。
元は保険会社に勤めておられましたが、脳卒中後の復職は叶わず生活保護を受けながら生活されています。当初は、先行きの不安と自己肯定感の低下から抑うつ症状が見られました。何より家での日常生活がままならない状態だったため、まずはリハビリに取り組み、基本的な生活動作の「できる」を増やしました。成果が見え始めたら、次の課題(お困りごと)は家事です。手指が握ったまま開きにくい状態であることが家事をしづらくしていたため、ボツリヌス療法を実施しました。徐々に掃除・洗濯が可能になり、料理は天ぷらを揚げることも可能になりました。家の中の生活に自信を取り戻してくると、家の外に目が向くようになりました。お住まいがアパートの2階だったことから、階段の昇り降りが課題になっていました。内側に巻いていた足にボツリヌス療法を実施することで、徐々に階段を昇り降りできるようになりました。
その時々の課題(お困りごと)を紐解きながら、治療を進めている事例です。コミュニケーションを通して患者様の治療に対する理解が進み、リハビリに取り組む意欲につながったと考えています。彼女は現在、もう少しで一人での外出ができる状態になっており、自己肯定感も取り戻しつつあります。
連携機関の向かう先を確認するコミュニケーション
コミュニケーションに関しては、医師 対 セラピスト(連携機関)にも同じことが言えます。在宅での支援は、「訪問リハビリテーション」や「デイケア(通所リハビリテーション)」などの事業所とも連携します。異なる機関であっても、患者様の生活の質が高まるよう支援するという目的は共通です。詳細な経過に加えて、リハビリの先に描く患者様の生活(目標)に向けてどのようなリハビリ訓練が必要かを明確に伝えるようにしています。すると、受け手のセラピストも熱心に経過を報告してくれます。必ずしも特別な手段ではなく、手書きで言葉を交わすことも多いですが、そうしたコミュニケーションを通して向かう先を確認していくことは重要だと思います。
今後もリハビリの先に描く目標を意識して、コミュニケーションからはじまる治療を実践していきます。