児玉院長が講演!“ラポールを築く”
御所南リハビリテーションクリニック院長の児玉万実医師が「お困りごとから紐解くボツリヌス療法~患者さんの声を聴くコツ~」と題して講演し、全国から約600名が対面とオンラインで聴講しました。講演は6月10日、東京都内で開かれた痙縮(けいしゅく)治療に関わる医療従事者向けのカンファレンスで行われました。
ボツリヌス療法とは、薬を注射し、筋肉の緊張が和らいだところにリハビリを集中的に実施する治療法。通常、治療効果は3か月程度持続した後徐々に消えていくため、年に数回注射を受けることになります。患者様と効果や目的を十分に共有できないと、治療を途中で止めてしまわれるケースもあります。
児玉医師は、初回説明で、治療の効果や解決したいお困りごとについて患者様と会話し、「ラポール」を築くことに力を割いています。ラポールは主に心理学で用いられるフランス語で、「橋を架ける」という意味。心が通じ合い、互いに信頼しあい、相手を受け入れていることを表します。
ラポールを築くことで得られるのは、患者様の「自己開示」です。「例えば“旅行に行きたい”という目標と、そのために何が障害になっているのかを話してもらうことが治療戦略において重要です。医師は“先生にお任せします”と言われ慣れていますが、患者様中心のチーム医療にすることが望ましいです」と考えを紹介しました。
紹介した事例のうち1人は、脳梗塞を発症し、回復期リハビリ病院退院時はほぼ寝たきりだった50代女性です。退院後の娘様との2人暮らしは、訪問ヘルパー(週5回)のサポートを得てようやく何とか回るようになりましたが、その裏側で、本人の家庭内での役割は失われました。一時、心理的にもうつ状態にも陥ったそうです。
しかし、本人には(家庭内での)役割復帰に対する強い気持ちがあり、ボツリヌス治療を実施することになりました。本人の努力や訪問リハビリ、訪問ヘルパーの理解と協力も得て、天ぷらやだし巻き卵を作れるまでになり、徐々に家庭内の役割を果たすことができました。現在は訪問ヘルパーの利用も週1回に減り、仕事を探しておられます。
このケースを「リハビリの先に描く暮らしに向けて時々刻々と変化するお困りごとにアプローチし、自己肯定感や役割を取り戻しつつある事例」と紹介し、他にも旅行や、高校生ボランティア、グループ内事業所での就労支援など様々な試みにも触れました。
日々の診療を、「患者様を応援し続けて、“小さなできた”を一緒に喜べる時間」と児玉医師。実践に基づいて語られた内容に、聴講者からは「患者様とラポールを築くことの重要性を再認識した」「一つひとつの取り組みが心温まる内容だった」と共感の声が多数あがりました。