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日常に面白さや楽しさを_木村紀久雄展 記念インタビュー

2020年1月15日(水)から約1か月間、京都大原記念病院院内「木村紀久雄展-ともに生きてる-」を開催しています。木村紀久雄さん(77)は、御所南リハビリテーションクリニックでリハビリに励みながら、『日常に面白さや楽しさを感じること』を大切にイラストや絵画創作を続け、2019年10月に個展「USASABO HUMMING」を開かれました。「面白い」や「楽しい」と感じてもらえたら嬉しいと、個展よりの数点を京都大原記念病院で展示させていただくことになりました。木村さんのインタビューをご紹介します。

  • [記事内容は2019年12月取材時点のものです]

 

私は2016年頃より痛みやしびれが現れ歩行困難になり、脊柱管狭窄症と診断されました。同年に腰、2018年には首の手術を受けました。今も杖をついて歩いていますが、2度目の手術後、利き手の指が自力で開けなくなり、脚と手、両方のリハビリをしながら創作を続けています。

絵は好きで20才を越える頃までは描いていましたが、もう一度描きだしたのはそれから50年以上が過ぎてからなので最近です。最初に個展を開いたのは2016年10月、自分の作品を知ってくれた、友人のギャラリーオーナーから声をかけてもらったのがきっかけでした。6月に腰の手術をするのに個展の開催を決めてしまったので、無事に開催したい!との気持ちが支えになり入院生活を乗り切ることが出来ました。個展ではそれまでに書き溜めていたものを展示したほか、ギャラリーの壁にも直接絵を描かせてもらいました。まだしっかり立てず、妻に後ろから体を支えてもらいながら描き上げたのですが、大きな絵を描くことが出来て嬉しかったのを憶えています。

2016年の初めての個展にて

2016年の初めての個展にて

首の手術を受けたのはその2年後の2018年11月。術後、利き手に異変が起こりました。手の指を、握ることはできるのに、自力で開くことができなくなったのです。洗顔や着替えなどは左片手で、食事はフォークを使っていました。不自由でしたがあまり悲壮感はなく、「右手があかんなら左手で」というくらいに考えていて「手が動かなくなったのは、何かいいことが起こる前ぶれかもしれないぞ」と冗談を言ったりしていました。

とは言え家族からは、困ることになるからとリハビリを続けるように言われていたので、医師の勧めもあり、退院してすぐ、2019年1月から御所南リハビリテーションクリニックへの通院を開始し、週2回程度訓練を受けてきました。

御所南リハビリテーションクリニックでの様子

正直なところ、首の手術で入院していた時は、辛く気の沈む日もありました。そんな時持って来ていたノートに、毎日好きなねこの絵でも描いたらどうかと提案されたのです。最初は気乗りがせず面倒な気持ちでしたが、描いているうちに徐々に面白くなって来て、見舞いに来てくれた人や看護師さんに見せたりしながら、退院まで続きました。当初、利き手では全く無理で左手だけで描いていたのですが、「左右それぞれで描いて比べてみたら?」と再提案されると、また素直に聞いて(笑)、自然に利き手も使うようになっていました。後に描くことがリハビリにもなったと思ったので、このノートを「リハビリ帖」と名付けました。振り返って見てみると、今との差がはっきりわかります。

入院中に描いていた絵

本屋さんでの展示の一部

退院の数週間後に体調を崩し、また入院生活を送ったりもしたのですが、再退院後には「リハビリ帖」から発展させ、ねこの絵だけで描いた絵日記を、「今日のねこ帖」と題して本屋さんで発表させてもらったり、はじめて個展を開催したギャラリーでの2度目の個展を、迷いながらも2019年10月に決めたりして、状況に押されるように絵を描き続けることになりました。

とは言え、5月頃はまだ利き手の状態はあまり変わっておらず、筆を握ることさえうまくできませんでした。それでも個展開催への気持ちが無くならなかったのは、自分を応援しつづけてくれる人たち、側で一生懸命闘病している友人の存在が大きかったです。思いもよらず、新聞に取り上げてもらったことも支えになっていました。

筆を持ち始めた頃。左手で支えながら描いていた

以前から使っていた手法だが、ドレッシングポットも多く活用

10月の個展では、身体が動かないもどかしさと、新しい描きたい対象がみつからないという、「身体能力」「新たな題材」への2つの挑戦がありました。当初どちらも上手くいかず納得いくものはなかなか生まれませんでした。情けなくなってきて途中で止めてしまおうかとも思いましたが、そんな時、背中を押してくれている友人とランチに行ったお店で、印象的な「サボテン」を偶然見かけ、「このサボテンを描いてみようかな」と思ったのです。それからの数ヶ月、気持ちも体調も上がったり下がったりしながらでしたが、作品を創って行きました。友人との大切な時間と作品のきっかけをもらった、思い出深い日になりました。

身体面ではその数ヶ月の間に、だんだんと手の動きに回復が現れて来ていました。個展直前には、筆もある程度使えるようになり、補助箸がなくても食事ができる回数も増えて行きました。クリニックでのリハビリを続けながら、並行して絵を描いていたこともリハビリになったのかもしれません。

2019年10月の個展。メインの作品

児玉院長と個展会場にて

病気を発症してからはいろんな事がありました。絵を描くということがなければ気持ちの面でも身体の面でも、今の自分はなかったように思います。今の生活をこうして続けられたのは、、家族はもちろんですが、お世話になった医師や看護師のみなさん、親身にそして明るくリハビリを行い共に歩みを進めてくださったクリニックの医師をはじめとしたスタッフのみなさん、他にも作品を見たり感想をいただいた方など、支えたり背中を押してくれた沢山の人や出来事との出会いがあったからだと実感し、感謝しています。

それでも悪いところに目が行ったり、身体が辛かったりすると「もうあかんわ」などと思う日はもちろんあります。でも基本的に、体力が落ちて行くのも自然なこと、歳を重ねたら重ねたで楽しいことはたくさんある、と思っているので、また笑う日がやって来ています。これからも日常にある面白さや楽しさを見つけながら過ごして行きたいです。

自宅での創作風景

奥様とリビングにて