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<講演採録> 寝たきり予防の脊椎手術_池永稔 医師(相馬病院 脊椎外科部長)

脊椎・脊髄損傷

11月10日(日)京都商工会議所にて、「寝たきり防止の脊椎手術と寝たきり防止の脊椎体操」をテーマに読売健康講座(日本ストライカー㈱、大阪よみうり文化センター共催)が開催。御所南リハビリテーションクリニックに非常勤医師として勤務いただいている池永稔先生(相馬病院 脊椎外科部長)が講座前半に「寝たきり予防の脊椎手術」をテーマに、同 岩﨑義仁理学療法士が後半に「寝たきり防止の脊椎体操」と題して講演しました。講座前半の池永稔 医師の講演をご紹介します。

【後編】「寝たきり防止の脊椎体操」(岩崎義仁療法士)はこちら

 

脊椎疾患を含む運動器疾患の予防が重要

国内では要介護になる要因として認知症、脳卒中が一般に知られていますが、関節疾患や脊椎疾患も含めた運動器疾患も5割近くを占めます。寝たきりにならないためには、脊椎疾患を含め運動器疾患を適切に治療して症状の進行を防ぐことが大切です。

 

骨粗鬆症の予防、丈夫な骨づくり

近年、元気な状態と要介護状態の狭間の時期として「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」「フレイル」が提唱されています。ロコモ、フレイルの原因となる脊椎疾患は多いものから「圧迫骨折」「脊柱管狭窄症」「頸椎症性脊髄症」が挙げられます。脊椎で起こる圧迫骨折の原因の多くは骨粗鬆症です。女性ばかりが注目されますが、全体の約2割は男性で、実は女性より骨折リスクが2倍に高まるなど重度化することがあります。特に、生活習慣病のある方や喫煙習慣のある人が発症しやすい症状です。

骨粗鬆症は基本的にカルシウムに着目される考え方ですが、骨はカルシウムだけでなく、タンパク質(コラーゲン)も多く含まれています。カルシウムはコンクリート、タンパク質は鉄筋の位置づけと捉えると分かりやすく、骨粗鬆症の予防というよりは、双方バランスの良い丈夫な骨を目指すことが大切です。

Stop at One ! 骨折連鎖を断つ

骨粗鬆症により脊椎で圧迫骨折が起こると、つぶれた骨が次の椎骨を圧迫するなどして骨折が連鎖することがあります。そもそもの予防はもちろん、1つ目を発症してしまった時に適切に治療して2つ目以降を起こさせないことが症状の進行を抑えるうえではポイントになります。

昔は腰のまがった高齢者を見ても何とも思いませんでしたが、実は腰が曲がった(後弯変形)状態には複数個所で圧迫骨折が起こっているケースが多くあります。近年は脊椎圧迫骨折に伴う生命予後への影響などが分かり、認識は変わってきました。後弯変形が起こると、腰痛や、歩行障害が出たり、内臓圧迫による心肺機能の低下、消化機能の低下、さらには対麻痺などへと重度化する可能性があり、適切な治療が必要となります。骨折連鎖を断つ!と「ストップ アット ワン(STOP AT ONE)」と提唱され骨粗鬆症の啓発活動も展開されています。

 

適切な治療と定期観察で症状の進行を抑える

「バルーンカイフォプラスティ(BKP:baloon kyphoplasty)」という手術も普及してきました。この手法はつぶれた骨にバルーンを入れて、元の形に近い状態へ近づけ、症状の進行を予防するものです。通常は約1時間以内で比較的体の負担が小さい手法です。痛みが取れ、(つぶれた骨の)変形もある程度矯正できるため、立った姿勢でのバランスや、歩行が改善し、生命予後の改善も期待できます。

こうした手法だけでなく、もし圧迫骨折が起こってしまった場合は必ずコルセットを作ってもらい1、2ヶ月程度はしっかりとつけることで変形を防げる可能性は高まります。

また、レントゲンをこまめに撮ってもらうことも大切です。痛みが生じてレントゲンを撮ってもらっても分からない時があります。だからといって放置して、2~3週間後に腰痛が続くからと撮りなおすと完全につぶれてしまっていることもあります。1回目に撮影した翌週も撮ってもらうなどして状態を確認し、早期治療につなげることが大切です。

 

脊柱管狭窄症と頸椎症性脊髄症

痛み止めは対処療法で根本的な治療ではない

次に脊柱管狭窄症(腰)と頸椎症性脊髄症(首)です。起こる場所や症状が異なるため区分されますが、骨が変形することで神経を圧迫して手足のしびれや歩行障害が起こる点は近い概念の疾患です。腰からの歩行障害はしばらく歩くと足が痛くなります。首からの場合は手がしびれて、徐々に足へと症状が進行し、歩行では特に歩き始めが難しくなります。また、お箸をつかったり字をかいたり細かな運動(巧緻性運動)がしづらくなるのが特徴です。痛み止めを服用することもありますが、あくまで対処療法です。基本的に根本的な治療には神経の通り道を拡げて神経の圧迫をとる「頸椎椎弓形成術」「腰椎固定術」などの手術しかありません。

 

手術はこわいのか?

腰や首の手術は怖くないかとよく聞かれます。当然、誰でも怖いと思いますし、千に一つ、万に一つのリスクはどんな手術でも必ず存在します。ただし、ご紹介した手術は決して非常に危険度が高い手法ではありません。一方で放置すれば症状は必ず悪くなります。

ぎりぎりまで放置して手術を受けるか、ある程度余裕のあるところで手術をするか、なにもしないか。どこで判断するかは難しいと思います。そのためには、信頼できるかかりつけ医を決めておきましょう。同じ目(見る目を一定にしておいて)で定期的にみてもらい進行を把握してもらい、相談しながら判断するのがいいと思います。

手術で全ての症状が改善するわけではありませんが、腰の場合は痛みや歩行障害、上肢の症状などの一定の改善が見込めます。ただし痺れは残りやすく、特に首の場合は回復がゆっくりになる傾向にあります。既に神経に傷がついていることも多く、完全に改善する訳ではありませんが、将来の進行を予防する手法としても知っておいていただくのがいいと考えています。

 

さいごに

脊椎疾患は適切な時期に適切な治療を受ければ進行を抑えることができます。必要に応じて手術を受けることも心づもりが必要であり、それを判断するためにも信頼できる医師により定期的に経過観察してもらうことが大切です。今日の話が、皆さんの1日でも長い健康長寿に役立てば幸いです。

 

  • |Profile|
  • 池永稔先生(いけながみのる)
  • 相馬病院 脊椎外科部長
  • 日本脊椎脊髄病学会脊椎脊髄外科指導医
  • 日本整形外科学会脊椎脊髄病医

【後編】「寝たきり防止の脊椎体操」(岩崎義仁療法士)はこちら

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